シンのサーブ  ~Scene 22~

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中学校時代、僕はバレーボール部に所属していた。
部員数も少なく過去の実績もない弱小チームだった。
顧問の先生も名ばかりで、教えてくれるコーチも居ないような状態で、
部活の有無や、練習内容等は部長であった僕にほとんど任されていた。

何処の部にも運動音痴だけど一生懸命頑張ってるやつが一人くらいいたと思う。
うちの部にもやっぱりそういうやつが一人いた。
僕と小学校が一緒で“シン”と呼ばれていたとても良いやつだった。
でもその運動神経は、残念ながらどうにもならないレベルのものだった。
普段の練習は問題ないが、フォーメーションやゲームを想定した練習の時は、
どうしても外さざるをえないので、練習メニューやメンバーを決める僕としては
いつもほんとに申し訳なく思っていた。
シンにはいつも向こうからサーブを入れる役目をやってもらっていた。
最後までその役目だったけれど、シンは文句のひとつも言う事なく
いつだって黙ってサーブを打ち続けてくれた。

中学校での部活生活の最後の大会である区大会。
それまでにバレー部経験者の転校生が一人入部してくれて、
少しはましになってはいたが、弱小チームであることにかわりはなかった。
余談だが我がチームの試合用のユニフォームがこれまたダサかった。
白地にオレンジの文字が入った、いかにも弱そうなユニフォームで、
強いチームは大概濃い色で威圧的に感じるようなユニフォームだった。
それでも一回戦は相手にも恵まれて、奇跡的に勝つことが出来た。
そして二回戦。
相手は二年前にその後全日本代表のエースとなる逸材を擁して
全国大会でベスト4になっているとんでもない学校だ。
第一セット。当然、まるで歯が立たない感じで取られてしまった。
第二セット。このセットを取られた時点で、僕達の中学校での部活動は終わりを告げる。
なんとか最後の力を振り絞って、食らい付いてはいたが、
いよいよ敗戦が濃厚になってきたので、
僕はそれまで試合に全く出ていなかったシンに声をかけた。
“次、サーブ権がきたらいくよ”
そしてピンチサーバーとしてシンがコートに立った。
はっきり言って誰も期待はしていなかったと思う。
もちろんそれは僕も同じだった。
ところがシンがサーブを放った次の瞬間、体育館がどよめいた。
区大会レベルではなかなかお目に掛かれないような、強烈なドライブサーブが
相手コートに突き刺さった。
まるで森田淳悟のドライブサーブを見ているようだった。
練習の時そんなサーブ打ってたっけ?
シンはそのまま何本も続けてサービスエースを決めた。
勢いのついた僕らはそのセットを逆転で奪い、
さらに次のセットでもシンのサーブは冴えわたり、
とうとう僕らは強豪チームを倒してしまった。
その時の感激は、今でも深く身体に残っている。
決勝では負けてしまったけれど、もちろん試合を終えた後の帰り道では
今まで見たことのないみんなの笑顔がはじけていた。

練習でサーブを打ち続けてくれたシン。
それを受け続けていた仲間たち。
いつの間にか、みんな少しだけど強くなってたのかな…


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